はじめに:「仕事、代わりがいないから休めない」──それは美徳ではなかった
「体調が悪くても、会社には行く」
「自分がいないと仕事が回らない」
「迷惑かけたくないから休まない」
そんな日々を、もう何年も続けてきた。
正直、それが“正しい働き方”だと思っていた。
でもある日、限界は突然やってきた。
「俺がやらなきゃ誰がやる」──責任感が強すぎた頃の話
僕は、ある中小企業で10年以上働いている。
社員数は20人足らず。僕のポジションは営業兼マネジメント。
見積もりから提案、部下の教育、トラブル対応まで全部自分で対応していた。
気づけば、「自分が抜けたら何も進まない」状態が当たり前になっていた。
多少の熱でも「とりあえず出社」
胃が痛くても「昼はおかゆで我慢すればいける」
周囲からは「頼りにしてますよ」と言われ、それがプレッシャーになっていた。
ある日、突然動けなくなった
ある朝、目が覚めた瞬間、体が動かなかった。
寝返りすらつらい。頭もぼーっとしている。
病院に行くと、「過労と自律神経の乱れですね」とあっさり。
結局、医者の強制で1週間休むことになった。
「代わりがいない人」が、最初に壊れる
「自分にしかできない仕事だから」
「周りに頼れる人がいないから」
「任せる時間がないから自分でやった方が早い」
そのすべてが、いつの間にか「休めない理由」になっていた。
でも、結果として何が起きたかというと、自分が壊れただけだった。
あのとき本当に思った。
誰かに頼ることを怠ってきたツケは、自分の体に返ってくる。
「責任感がある人ほど、壊れるのが早い」って、皮肉じゃなくて本当だと思った。
組織が抱える構造の問題、属人化された業務、文化としての“休みにくさ”。
その中で踏ん張ってしまう人ほど、静かに壊れていく。
その後、僕は転職活動をしてみた
休み明けに職場へ戻ったものの、どこかでスイッチが切れてしまった感覚があった。
また同じように全力で働けば、また同じ結果になるんじゃないか。そんな思いがつきまとっていた。
ある日、なんとなく転職サイトを眺めて、1社だけ応募してみた。
履歴書も職務経歴書もテンプレで十分。今は本当に便利な時代だ。
面接も拍子抜けするほど穏やかで、こちらの話を丁寧に聞いてくれた。
「それだけの役割を1人で担っていたんですね」と言われたとき、
あ、自分ってちゃんとやってきたんだと、初めて思えた。
内定が出て、心が少し軽くなった
数日後、その会社から内定の連絡が来た。
嬉しいというより、「あ、まだ自分にも選択肢があるんだ」とホッとした。
結局その会社には行かなかった。
でも、「いつでも辞められる」と思えるだけで、心がふっと軽くなった。
それ以来、以前よりも少しだけ肩の力を抜いて働けるようになった。
すぐに仕事は手放せないけど、「この場所だけがすべてじゃない」と思えるようになったことが大きい。
選択肢を持つことは、逃げじゃない
「代わりがいないから休めない」と思い込んでいた過去の自分は、きっと誰よりも真面目だった。
でも真面目すぎると、自分を壊す。
大切なのは、「休める環境」や「任せられる体制」だけじゃなくて、
“自分には選択肢がある”という感覚を持つことだと思う。
もし今、あなたが「しんどいけど辞めるわけにはいかない」と思っているなら、
面接を受けてみるのもいいし、書類を作ってみるだけでもいい。
「いざとなれば動ける」という感覚は、それだけで心を守ってくれる。